レイズ マイ ルーフ

私が大切にしている座右の銘に「Raise My Roof」という言葉があります。
この言葉に出会ったのが96年。
それから今に至るまで、私の価値観や判断基準に大きく影響を与えている言葉です。

当時私は仕事の傍ら、社会人アメフトチームのリクルートシーガルズ(現オービックシーガルズ)でプレーしていました。練習は水・土・日の週3日。
水曜日は会社も特別休暇として終日練習することを認めてくれていて、
週4日の仕事で5日分の成果を出すことと、週3日の練習で夢の日本一になることを本気で目指していました。
92年から引退した99年までの8年間は、ほぼ休み無しで双方に膝を突き合わせて真面目に取り組んだつもりです。
そんな生活が当たり前の中、深夜にアメリカNFLやNBAのTVを見ていると、
タッチダウンやダンクシュートを決めた選手がすかさずやるパフォーマンスポーズが目に留まりました。
両手、あるいは片手を上げ、まるで手のひらに「おぼん」を乗せているような格好で腕を上下させています。
当時流行っていた、お客さんの間をすり抜けてビールを運ぶバドガールを連想させるポーズ。
おぼん無しではお世辞でもカッコいいポーズでは無いと思った私は、翌日の練習でヘッドコーチのデイビットに聞いてみました。
「あれはなんの意味があるの?」
すると、デイビッドはいつものようにアメリカ人とは思えない流暢な日本語で、
『オー!カメ。それはRaise My Roofネ。』
「肝心なところ英語で言われてもわかんないんだけど・・・」
『オー!ゴメン Raiseは上げる Myは自分 Roofは天井』
「で?」
『オー!そうネ~ 自分の天井を上げる。つまり自分の限界を上げるってコト。自分自身の限界は自分が勝手に作るものネ。誰に言われることも決められることも無いヨ。カメも100ヤードを全力で10本走った後に、もう1本走れって言われたら最初から11本走れって言われて走るより絶対にスピード落ちるでしょ。ベンチプレスのMAXが105kgだけど、自分の体重では107.5kgは無理だと思っているでしょ。』
「確かに」
『オー!それだよ。コーチは無理だと言ったの?』
「言ってない」
『ノ~カメ!それはカメが勝手に作ってる自分の天井なのヨ。自分の天井を上げるのは自分しかいないネ。いくらコーチがそれを上げようとしても、結局は自分が自分の天井を上げる意識を持ちトライしないと成長しないヨ。これは誰にもサポートできない。』
「なるほど・・・ で、あのパフォーマンスの意味は?」
『オー!そうネ~ あれは自分はこのプレーで満足していない。まだまだ俺は出来るぜ!だからこれからの俺をもっと見てくれ。という意味ヨ。』

私は11本目も107.5kgもデイビットの言った通り「そんなの無理」と勝手に限界を決めてしまい、その先入観が蓋をして事を成しえない自分の姿が容易に想像できました。

確かに誰に決められたわけでなく、無意識に自分で自分のリミットを決めている。
これはアメフトだけでなく、あらゆることで自分の判断基準に組み込まれていることに気付き「もったいなさ」を痛感したのです。
仕事もそうだし、人生もそう。
デイビットの例えが良かったこともあり、ちょっとした質問が私にとって深く考えさせられる言葉として残りました。
そのシーズン、デイビッドはチームのスローガンを「Raise My Roof」とし、そして初の日本一を獲得することが出来ました。
当時、チームメイト全員が凄まじく辛い練習メニューを「レイズマイルーフじゃ~!」と叫びながら、自分の限界を伸ばす意識を持って取り組んでいたことを思い出します。
このシーズンから今に至るまでシーガルズは日本一の常連となるチームになったのです。

結果的にこれが私の強烈な成功体験に繋がりました。
それからも『自分には無理だ』、『これは出来ない』と思うことは多々ありますが、
その度に『いや、それは自分が勝手に思っているだけで、本当はそうじゃないんじゃないか?なんで自分の可能性を自分が狭めてるんだよ!俺は!』
と、一旦弱腰になった自分を1歩前に出させる原動力になってくれています。
現役を引退し、その後仕事で管理職になった前職でも「Raise My Roof目標」なるものを事業部で設定し、メンバー全員に[今まで出来なかったけど、3ヵ月後には出来ていたい売上以外の目標]を掲げてもらい、それを明記し個々のデスクの天井から垂れ幕として3ヶ月間ごとに貼り付けました。
「お客さんと3回呑む」や「○円以上の大型受注をする」、「○○君より新規を多く獲得する」などの垂れ幕が並ぶちょっとノスタルジックなオフィスでしたが、私にとってはこれが一番のこだわりでした。

そして2年前になりますが、久しぶりに見学しに行った母校のアメフトの練習が終わった後、この話を選手全員にしました。
嬉しいことに今年のチームスローガンが「レイズマイルーフ」になったとのこと。

私自身の「Raise My Roof」の象徴はこの仕事を始めたことです。
今までの15年間勤めたリクルートとは異業種・異職種の仕事を転職でなく、いきなり独立して始めたことです。
「そんなこと出来ない。食っていけない。」そんな自分の中での囁きを、メンバーにも強いてきた私の座右の銘が一蹴してくれ、踏み出す事が出来ました。
おかげさまで今年で13年目を迎えています。
知らないことをやり始めたら勉強もしますし、生きるために必死で仕事をします。
そしたらなんとか食えるもんです。
全ては「Will」。
出来ない理由は外にあるのでなく自分の中にあるもんだと、
人に言っても恥ずかしくない生き方をしたいです。

 

《カメヤマ珈琲HPのTOPに戻る》